●良質な堆肥と未熟堆肥
良質な堆肥とは、作物の成育に必要な栄養分を多量にしかもバランスよく含んでおり、同時にきちんと成熟された堆肥でなければなりません。きちんと発酵・成熟していない肥料には成育阻害作用があるため、単純に堆肥なら何でもよいというわけではありません。
未熟堆肥の問題点
1.無機態窒素による障害
家畜の生糞は微生物により分解されやすい分解されやすい(易分解性)有機物を多く含んでおり、土中で易分解性有機物が急激に分解しアンモニアを生成します。生糞は窒素分が多いため、土壌中でアンモニウム態窒素濃度が高まり作物の成長を障害します。
2.有機酸による障害
有機物の急激な分解により酸素が消費されることで土壌が酸欠状態となり、嫌気性菌が繁殖して有機酸を生成するため土壌が酸化します。
3.窒素飢餓による障害
藁などのように分解されやすい炭水化物が多い場合、炭素をエネルギー源として微生物が急激に増殖します。この際、微生物は自身の体内に周囲の窒素分を取り込みます。一方で藁は窒素が少ないため、結果として窒素飢餓が起こり作物が必要な窒素を十分に取り入れることができなくなります。
4.フェノール性酸等による障害
炭素分が多く難分解性であるオガ屑などの繊維質は堆肥化における微生物の分解に時間がかかり、木質中に含まれるフェノール性酸やタンニンなどにより成長が障害されます。
5.寄生虫卵・雑草種子による障害
原料糞の中の寄生虫卵や飼料に混入した雑草の種子をそのまま耕地に散布すると、感染や雑草による被害が生じます。
これらの問題は堆肥をきちんと発酵・成熟させる過程で取り除く必要がありますが、その中でも特に「難分解の繊維質をいかに短時間で効率よく分解できるか」が重要になります。
●良質肥料の製造
未熟堆肥の問題を取り除く為、熟成の過程で次の点がポイントとなります。
1.原料の選択配合とその条件整備(成分バランス・水分・温度等)
2.完全な曝気機構と高濃度好気性菌群の活用による初期発酵のスピード化
3.難分解繊維質の腐植化を早める嫌気性菌群の活用
堆肥用原料の条件
良質な堆肥は、土壌改良効果だけではなく、肥料成分をバランスよく保持した肥効性にも優れたものでなければなりません。したがって原料も発酵効率に関係のある炭素率・水分・比重・を設定するだけではなく、原料となる鶏糞・牛糞・敷料等の成分要素(窒素・燐酸・カリ等)を考慮して配合比率を決めるのが理想です。
炭素率
炭素率(C/N比)とは原料の炭素成分と窒素成分の割合を表す数値です。
良質堆肥の炭素率は15~20程度といわれますが、原料の炭素率は大体以下の通りです。
原料 |
炭素率 |
牛糞 |
16 |
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豚糞 |
11 |
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鶏糞 |
6 |
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稲わら・麦わら |
50~70 |
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木質(バーク・オガ屑等) |
130~1400 |
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堆肥化が進むと炭素率が低下します。具体的には、豚糞・鶏糞は窒素分が多いものの、分解されやすい蛋白質等に含まれる窒素が微生物の体内に取り込まれるとアンモニアガスのかたちで放出されます。そのため、窒素量が減少する一方で微生物はそれ以上に栄養源となる炭素分を消費するため、全体の炭素率は低下します。
したがって、適正な炭素率を保つために、畜糞原料に炭素分の高い植物系の原料を配合することが、良質堆肥を製造する重要なポイントとなります。
難分解性木質の分解
植物系の原料でもバークやオガ屑などの木質の繊維は栄養源としては豊かですが、リグニンと強固に結合し、あるいは結晶化しているため微生物に分解されにくい構造を持っています。
このような難分解性の木質繊維を原料として含む場合は、従来は堆肥化に通常は最低一年以上を要するとされてきました。しかし、以下のような方法により分解を早め成育阻害物質を短期間で分解除去することが可能です。
1.鶏糞・豚糞等の窒素分の多い易分解物質と適度の比率で混合し、好気発酵で一次処理を行います。
2.二次処理として嫌気堆積を行い、繊維素を腐植化する嫌気性微生物により、短期間で成育阻害物質を分解除去します。